公的年金は、受け取り開始を遅らせる(繰下げる)ほど毎月の金額が増えます。70歳からなら42%増、75歳からなら84%増です。

一方、FIREした人にとっては、年金を受け取るまでの期間が長くなる分、資産からの取り崩しが増えます。繰下げは得なのか、損なのか。当サイトのシミュレーターで比べました。

繰下げ・繰上げのしくみ

年金は原則65歳から受け取りますが、60〜75歳の間で開始時期を選べます。

受け取り開始 増減率 年金月額の例
60歳(繰上げ) 24%減 約8.8万円
65歳 ― 約11.6万円
68歳(繰下げ) 25.2%増 約14.5万円
70歳(繰下げ) 42%増 約16.4万円
75歳(繰下げ) 84%増 約21.3万円

年金月額の例:22〜40歳まで会社員(平均年収550万円)で40歳でFIREし、60歳まで国民年金保険料を納めた場合。繰上げは1か月あたり0.4%減、繰下げは1か月あたり0.7%増です。

受け取り開始年齢別:FIREに必要な資産

40歳でFIREし、生活費が月25万円の場合に必要な資産です。

受け取り開始 成功率50% 成功率80% 成功率95%
60歳 約8,300万円 約1.40億円 約2.50億円
65歳 約8,200万円 約1.38億円 約2.43億円
68歳 約8,200万円 約1.31億円 約2.32億円
70歳 約8,100万円 約1.29億円 約2.23億円
75歳 約8,100万円 約1.29億円 約2.18億円

試算の前提:全世界株インデックス中心(想定利回り年5%・うち配当2%)、配当と売却益に20.315%課税(資産の2割はNISA)、物価上昇率2.0%、100歳まで。

ポイントは3つです。

  • 70歳まで繰下げると、成功率80%の必要資産は約900万円減る(1.38億円 → 1.29億円)
  • 安心重視(成功率95%)ほど、繰下げの効果が大きい(約2,000万円減)
  • 五分五分(成功率50%)では、ほとんど差がない

なぜ「安心重視」ほど繰下げが効くのか

繰下げは、長生きと相場の悪化に対する保険の役割を果たします。

相場が良いケースでは、資産が十分に残るので、年金を早くもらっても遅くもらっても大差ありません。一方、相場が悪く資産が減っていくケースでは、一生続く年金の額が大きいことが、最後の支えになります。成功率95%のような「悪いケースでも持つか」を見る基準ほど、繰下げの効果が大きく出るのはこのためです。

逆に、60歳からの繰上げは、必要な資産をわずかに増やしました。早く受け取れても、一生続く年金が24%減るデメリットのほうが大きいためです。

損益分岐点は「約82歳」

年金を受け取った総額で比べると、70歳から受け取り始めた場合、65歳から受け取った場合に追いつくのは約82歳です(75歳からなら約87歳)。

日本人の平均寿命(2024年)は男性81.09歳、女性87.13歳です。ただしこれは0歳時点の平均で、65歳まで生きた人はさらに長生きする傾向があります。「長生きしたときに困らない」ことを重視するなら、繰下げは有力な選択肢です。

繰下げの注意点

  • 繰下げを待つ間は、年金がゼロ。その期間の生活費は、資産の取り崩しや副業でまかなう必要があります
  • 年金が増えると、税金や社会保険料も増える。手取りの増え方は、額面の42%より小さくなります
  • 基礎年金と厚生年金は、別々に繰下げられる。片方だけを繰下げる方法もあります
  • 途中で受け取りに切り替えられる。66歳以降、繰下げ中に「やっぱり受け取る」と決めることもでき、そこまでの増額分が反映されます

まとめ

  • FIREした人にとっても、繰下げは必要な資産を減らす方向に働く(70歳からで約900万円減、成功率80%)
  • 効果は「悪いケースへの備え」で特に大きい。長生きと相場の悪化に対する保険と考えるとよい
  • 繰下げを待つ間の生活費を、資産や副業でまかなえるかが判断のポイント

シミュレーターの「受け取り開始」を変えて、自分の条件で比べてみてください。

参考資料