FIREを考える人にとって一番の不安は「仕事を辞めた直後に暴落が来たらどうしよう」ではないでしょうか。
実はこの不安は、数字で見てもかなり的を射ています。取り崩しをしている間は、暴落が「いつ来るか」によって、結果が大きく変わるからです。これを「シーケンス・オブ・リターンズ・リスク(収益率の順序リスク)」と呼びます。
同じ暴落でも、来る時期で結果がこれだけ違う
40歳で1.38億円の資産を持ってFIREし、毎月25万円を取り崩す人を想定しました。普段は毎年同じ利回りで推移し、一度だけ35%の暴落が来る場合を、暴落の時期を変えて比べています。
| 暴落の時期 | 65歳時点の資産 | 100歳時点の資産 |
|---|---|---|
| 暴落なし | 約1.67億円 | 約3.12億円 |
| 65歳(FIRE25年後)に暴落 | 約1.05億円 | 約1.62億円 |
| 50歳(FIRE10年後)に暴落 | 約8,500万円 | 約1.12億円 |
| 40歳(FIRE直後)に暴落 | 約6,700万円 | 約6,600万円 |
試算の前提:全世界株インデックス中心(想定利回り年5%・うち配当2%)、うちNISA 2,760万円、配当と売却益に20.315%課税、物価上昇率2.0%、22〜40歳は会社員(平均年収550万円)で65歳から年金を受給。金額は今の物価に換算。暴落した年以外は、毎年同じ利回りで推移すると仮定しています。
同じ35%の暴落なのに、FIRE直後に来ると、100歳時点の資産は65歳で来た場合の約4割になりました。
なぜFIRE直後の暴落が一番こわいのか
理由は2つあります。
1. 資産が一番多いときに、一番大きく減る FIRE直後は資産がもっとも多い時期です。そこで35%減ると、失う金額も最大になります。
2. 安値で売り続けることになる 取り崩し中は、相場が下がっていても生活費のために資産を売る必要があります。安くなった資産を売ると、その分は後で相場が戻っても取り戻せません。
ちなみに、35%下がった資産が元に戻るには、約54%の上昇が必要です。下落と上昇は同じ幅では打ち消し合いません。
暴落の後にすぐ回復すれば、影響は小さい
上の試算は「暴落したまま戻らない」厳しめの想定です。実際の相場は、暴落の後に回復することも多くあります。
FIRE直後に35%暴落し、その後3年間で元の水準に戻った場合を計算すると、100歳時点の資産は約2.30億円。暴落したままの場合(約6,600万円)よりずっと多く残りました。
暴落そのものより、「暴落中に売ってしまうこと」が資産を削るということです。
対策1:暴落の間だけ、取り崩しを減らす
FIRE直後の暴落の後、5年間だけ次の対策をとった場合です(暴落したまま戻らない想定)。
| 対策 | 100歳時点の資産 |
|---|---|
| 何もしない | 約6,600万円 |
| 5年間、生活費を2割減らす | 約7,900万円 |
| 5年間、副業で月10万円稼ぐ | 約9,300万円 |
暴落直後の数年間だけでも取り崩しを減らせれば、安値で売る量が減り、老後の資産が増えます。少し働ける余地や、削れる支出を残しておくことが、一番の暴落対策です。
対策2:生活費1〜2年分を現金で持っておく
暴落の間は株式を売らず、現金から生活費を出す方法です。相場が回復してから株式を売って、現金を補充します。
ただし、現金は増えないため、持ちすぎると長期的な資産の伸びが鈍ります。生活費の1〜2年分くらいが一つの目安です。
対策3:値動きの小さい資産を混ぜる(ただし利回りとのバランス)
値動きの大きさだけを変えて、40歳FIRE・1.38億円の成功率(100歳まで資産が持つ確率)を比べました。
| 値動きの大きさ(年) | 成功率 |
|---|---|
| 値動きなし | 100% |
| ±8% | 98% |
| ±16%(全世界株程度) | 81% |
| ±20% | 75% |
利回りが同じなら、値動きが小さいほど成功率は上がります。ただし実際には、値動きの小さい資産(債券など)は利回りも低めです。バランス型(利回り3%)で計算すると成功率は66%となり、全世界株(利回り5%)の81%を下回りました。値動きを抑えすぎると、利回りの低さで逆に不利になることもあるので、バランスが大切です。
まとめ
- 取り崩し中は、暴落が来る時期で結果が大きく変わる。FIRE直後の暴落が一番影響が大きい
- 資産を削るのは暴落そのものより、暴落中に安値で売ること
- 対策は「暴落中だけ取り崩しを減らす(副業・支出の調整)」「生活費1〜2年分の現金」「値動きと利回りのバランス」
- FIRE後も少し働ける余地を残しておくことが、最大の保険になる
シミュレーターの結果で表示される「悪いケース(下から10%)」は、こうした暴落が重なった場合の目安です。自分の条件で確認してみてください。
参考資料